交通事故の損害賠償請求と時効

権利は行使しないと消滅する

「権利の上に眠る者は保護せず」という法律上の諺(ことわざ)があります。権利を行使せずに一定の期間を経過すると、損害賠償請求権は時効により消滅(消滅時効という)してしまい、被害者はその損害を回復することができなくなります。

加害者に対して

加害者が誰かわかっている場合 交通事故により損害を受けたときから3年間
加害者が誰か後でわかった場合 加害者を知ったときから3年間
加害者が誰かわからない場合 交通事故により損害を受けたときから20年間

自賠責保険会社に対して

平成22年4月1日以降発生の交通事故

自動車損害賠償保障法改正により、保険金等の請求権の時効が2年から3年になりました

被害者請求の時効

被害者請求=(被害者から加害者の自賠責保険に請求する方法)

自賠責保険では、被害者が加害者の加入している自賠責保険会社に対し、直接に被害者請求または仮渡金の請求をすることができますが、これらの請求権は交通事故があった日から2年以内です。

傷害事故の場合 交通事故があった日から2年以内
後遺障害事故の場合 症状固定日(これ以上治療しても治らないと判断された日)から2年以内
死亡事故の場合 死亡日から2年以内

加害者請求の時効

加害者請求=(被害者に支払った後、自分の自賠責保険に請求する方法)

被害者や病院に損害賠償金を支払った日から2年以内です。分割して個々に支払ったときは、それぞれ支払った日から2年以内です。

任意保険会社に対して

被害者の時効

被害者は、任意保険に関する時効を考える必要はありません。加害者に対する損害賠償請求権の通り、3年で時効消滅します。

加害者の時効

平成22年4月1日以降発生の交通事故

保険法改正により、保険金等の請求権の時効が2年から3年になりました。

任意保険の契約者(加害者)は、原則として、事故後60日以内に保険会社に事故の発生につき通知する義務があります。任意保険は、治療が終わって(損害額が確定した後)2年間、何もしなければ、時効が完成してしまいます。

時効中断の方法

時効の中断とは、事実状態と相容れない事実が発生した場合に、時効完成に向かって進行しつつある事実状態を断ち切って、それまでの時効期間をゼロにすることです(それまで継続していた時効の効果が全く効力を失う)。その相容れない事実が終了して、以前の権利不行使の状態に戻る場合には、時効は再び進行を始めますが、その期間は新たに計算されます(中断した時効は、中断事由の終了した時から改めて進行する)。

時効の中断は、従来進行してきた時効期間が効力を失わず、単に時効完成が猶予されるにすぎない時効停止とは異なります。時効を中断する方法は下の2つがあり、どちらかを選択できます。

加害者または保険会社に対して支払を催告する

催告は、6ヵ月間だけ時効期間が延長されます。この期間内に裁判上の請求(調停申立て、訴訟提起)をしないと、時効は成立してしまいます。一度催告をした後、6ヵ月以内に再び催告しても時効中断の効力は生じません。催告は、内容証明郵便(配達証明にして)で行います。

加害者または保険会社に対して時効中断の承認を求める

加害者または保険会社が、時効中断の承認をすれば、時効期間の進行が中断されます。

債務の承認

通常、任意保険会社は、示談解決していない場合でも治療費を医療機関に支払います(ケースによっては、休業損害も被害者に支払うことがあります)。これは、債務の一部承認がなされていることになり、このときは、最後の支払いをしたときから新たに時効が進行しますので、最後の支払いがいつかによって時効完成の時期が決まります。

また、示談案として任意保険会社が一定の支払額(損害額計算書等)を提示していれば、これも債務の一部承認となり、その提示した時から新たに時効は進行します。

なお、加害者が「今はお金がないからもう少し待ってください」と猶予の申入れをしてきたときも、上記と同様に債務承認にあたり、時効中断の効力があります。